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雪の練習生 多和田葉子

  • 2023.01.09

動物園の動物の中で熊が一番好きだ。白い熊が良い。二匹でいるのが更に好きだ。大抵の場合、一匹は水の中に入ってリラックスして、もう一匹はそれを見守るようにして周囲を威嚇している。他の動物は二匹でいると、じゃれ合ったり、一緒にぐるぐる廻ったりと、同じ行動をするように見える。熊だけはそれぞれが別の行動をとるように見える。「雪の練習生」は、熊の眼を通して人間の世界を三世代に渡って観察する物語。地球上には多く […]

ほぼ日刊イトイ新聞の本 糸井重里

  • 2022.12.17

僕たちの世代(昭和三十年代の生まれ)にとって糸井重里さんは、カタカナ職業のトップランナーである。コピーライターなんていう言葉を初めて聞いたときは、100円ライターと何が違うのかなと思ったし、それが職業の名前だと知ったときは腰を抜かしそうになった。そんな糸井重里さんがインターネットを使って何かをやろうと試行錯誤しながらビジネスを作り出すプロセスを読むことができるのが「ほぼ日刊イトイ新聞の本」。僕もこ […]

鶴川日記 白洲正子

  • 2022.12.17

白洲次郎さんと白洲正子さん夫妻は戦争が始まって間もなく、小田急線の鶴川村(現在は町田市)にある茅葺の民家を手に入れて、「武相庵」と名付けて終の棲家として暮らしてゆく。「鶴川日記」には、正子さんが生まれ育った赤坂の暮らしと、次郎さんと暮らした鶴川の暮らしが描かれている。「武相庵」は現在もその場所に佇むように在り、当時の白洲ご夫妻の暮らしを見ることができる。不定期に開催される骨董市は賑やかである。赤坂 […]

通天閣 西加奈子

  • 2022.11.26

大阪嫌いの人がいるので理由を尋ねてみた。仕事で行った初めての大阪でタクシーに乗ろうと思ったら、見知らぬ人がやってきて「同じ方向やからちょっと乗せってってや」と強引に乗り込んできて、目的地まで来たら停めてもらってお金も払わずに降りて行った。あんなのはもう懲り懲りだということらしい。僕は大阪に十二年住んでいたけれど、そんな愉快なことには一度も巡り合わなかった。とても残念だ。これは作り話ではないかと思う […]

劇場 又吉直樹

  • 2022.11.20

俳優をやっている友人がいる。芝居の前になると、観に来てくれないかと連絡をくれた。下北沢の劇場に行くと、熱い芝居の終わった舞台で、まだ最終日まで席が残っているので是非また来てくださいと、必死に観客に訴えていた。幕が閉じると観客席にやってきて、どうやった?観に来てくれてありがとうございます、と知り合いの観客に声をかけた。観客の多くが知り合いのようだった。毎回毎回、芝居の度に連絡が来て、僕は毎回観に行っ […]

金継ぎの家 ほしのさなえ

  • 2022.11.05

阪神淡路大震災で高校生の時から愛用していた湯呑みが割れた。ボロアパートの一階にあった我が家は床がぽっこり盛り上がってしまった。そのお陰で冷蔵庫も食器棚も全て壁にピタリと寄り掛かって止まり、割れた食器はこの一番のお気に入りの湯呑みだけ。ボロアパートの隣の家は反対に床がぺこりと凹んでしまい、全てのモノが倒れ何もかもが粉々になっていた。怪我をしなかったのが不思議なくらい色んなものが倒れ重なっていた。当時 […]

私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな ジェーン・スー

  • 2022.10.30

男からすると女という生き物は全く理解できるものでは無く、扱い方がとても難しい。機械であればどこが調子悪いのかを調べて、その部分に少し手をかけてみればおおよそ治すことができるのだけれど、そういうものではない。そもそもどこが調子悪いのかを知ることができないのである。調子悪いところがあるのかどうかでさえもこちらにはわからない。それであるから作戦の立てようもなく、攻撃の仕方も守り方もわからない。とにかく敵 […]

新和風のすすめ 秋岡芳夫

  • 2022.10.21

生まれ育った町と山を隔てて反対側の山あいの町は、昔から漆器や和紙や刃物や眼鏡などの産地で家内制手工業が集積された地域である。こんなにも技術密度が高い(人口密度は呆れるくらいに低い)町というのは日本いや世界で見ても極めて珍しいということで、ここ数年はこういう家内制手工業の工房をオープンにして人に見てもらおうという取り組みが行われている。これまで人に見せることがなかった仕事場なのに、何でも見て、何でも […]

人生最後のご馳走 青山ゆみこ

  • 2022.10.10

ホスピス療養型の病棟の入院患者の食べたいものを教えてもらって、管理栄養士、看護師、調理師、医師などで話し合いをしてその料理を提供するという取り組みを、週に一度実施している病院があるという。大阪の淀川キリスト教病院。この本は、ここに入院している14人の患者とその方たちの食べたいものを提供する医療従事者の方を取材することによってできた本である。そのうちのお一人は残念ながら食べたいものを口にする日が訪れ […]

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