雪の花 吉村昭

  • 2025.02.18
雪の花 吉村昭

帰省をした折に行った銭湯の壁に映画のポスターが貼ってあった。別の日に別の銭湯に行ったら、やはり同じ映画のポスターが貼ってある。これはどうしてだろうと不思議に思い番台に尋ねてみると、どうやら福井県内のあちこちで撮影が行われ、実家のある街でも多くのシーンが撮られたとのことであった。それなら是非と思い立ち見た映画の後に原作を読んだ。福井にこんなにも人々の幸せのための献身的に活動をした医師がいたことを今まで知らずにいた。「名を求めず、利を求めず」の教えに従い、藩や幕府を動かし、自らの財を投げ出し、自ら先頭に立って行動をした医師の笠原良策。民を救い、国を変え、医学を変えた偉人の軌跡を辿ることができる。

京から越前の今庄に抜けるためには、山中峠越え、木ノ目峠越え、栃ノ木峠越えの三つのルートが存在していた。笠原良策が雪の栃ノ木峠を種痘を運んだのち、時代は明治へと移り、明治29年(1896年)に敦賀と今庄間に鉄道が開通する。昭和37年(1962年)に北陸トンネルが開通するまでの60余年間、鉄道は急勾配が続くこの区間をスイッチバックを繰り返して10のトンネルを抜けて峠越えをしていた。これらの旧トンネル群を抜ける鉄道跡を通って、2024年に敦賀から今庄を自転車で往復してみた。途中のトンネルの間に栃ノ木峠との合流地点があり、鉄道が敷かれる以前はこんな険しい峠を人は歩いて越えていたのかと驚いた。今度は、笠原良策が種痘を携え雪の中を越えたあの木ノ芽峠を歩いて越してみよう。

本: 「雪の花」 吉村昭
ブックカバー: 羽二重餅の古里