夏の庭 湯本香樹実

  • 2024.09.22
夏の庭 湯本香樹実

学生時代に月の家賃が300円の学生寮に住んでいた。学生寮の建物は敷地の広さに対してゆったりと建っており、空いたスペースは近所の子供たちの格好の遊び場となっていた。その遊び場に面した一階の部屋にはTさんという先輩が暮らしていた。とある日曜の午後、Tさんの窓の先に転がってきたボールを取りにきた少年三人は、窓から昼を過ぎても寝ているTさんを覗いて「死んでんじゃないの?」と話していた。気配を感じたTさんがぴくりと動くと「動いた!」と驚いて駆け出して行った。それからというもの、Tさんは子供たちの期待を裏切らないように日曜の午後は子供たちが帰るまで布団の中でじっと動かずに寝ていることにした。そのTさんは毎年学園祭になると頭に何かを被って変装し学内をうろうろとする一風変わった先輩であった。 「夏の庭」は三人の少年がひとり暮らしの老人の死の瞬間に興味があって老人の家を覗いてしまうことから始まる、少年たちと老人のひと夏のふれあいと成長のお話。その老人がどうしてもTさんと重なってしまう。Tさんもそれなりの年齢になっているはずなので、老人の役を十分に務めることができるはずだ。

本: 「夏の庭」 湯本香樹実
ブックカバー: 石川百衛門