葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
- 2023.04.22
- 本
桜で染めたという布を見て、てっきり僕は桜の花を使って染めたものだとばっかり思っていた。ところがある時、草木染をしている方から、桜の木を煮出した湯に布を浸けておくと桜色に染まるのだと教えてもらった。桜の木そのものは桜色をしているわけではないので、この事実にものすごく驚いてしまった。桜の花が散ってしまうと、次の春になるまでは全く見向きもされない桜の木が、誰にも見られることがなくても桜としての誇りを持ちながら、桜であり続けることに敬意をいただいてしまう。人も同じで、盛りを過ぎて誰も見向きもされない人でも、その人としての誇りを持ちながら、その人である続ける。「葉桜の季節に君を想うこと」は、花が散ってしまってからが本当の人生が始まるのだと教えてくれる。ミステリーなのは、ストーリーだけではなく人の生き方である。
本:「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野晶午
ブックカバー: 玉澤総本店
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