劇場 又吉直樹
- 2022.11.20
- 本
俳優をやっている友人がいる。芝居の前になると、観に来てくれないかと連絡をくれた。下北沢の劇場に行くと、熱い芝居の終わった舞台で、まだ最終日まで席が残っているので是非また来てくださいと、必死に観客に訴えていた。幕が閉じると観客席にやってきて、どうやった?観に来てくれてありがとうございます、と知り合いの観客に声をかけた。観客の多くが知り合いのようだった。毎回毎回、芝居の度に連絡が来て、僕は毎回観に行った。そんな彼の芝居もだんだんと客が入るようになり、そのうちに主演や座長も務めるようになった。彼の芝居には観客が来るようになった。そしてある時から、観に来て欲しいという連絡は来なくなった。これからもずっと芝居の前の連絡は来なけりゃ良いと思っている。僕がこっそりと芝居を観に来たことにも気が付かないでいてくれたら嬉しい。
本: 「劇場」 又吉直樹
ブックカバー: 誰にもあげない
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