あの歌がきこえる 重松 清
- 2021.05.15
- 本
僕の生まれ育った町はテレビで放送される民法が二局しかなかったせいで、「ザ・ベストテン」を見ることができなかった。高校三年生の秋、友達の家でセブンスターをふかしながら時間を潰していた時のこと。友達が「なあ東京の大学受けに行かんか?」と言い出した。驚いた。なんせ自分の知ってる人の中で東京に行ったことのある人間なんて誰もいない。「あほか、俺らこんな勉強しとらんのに東京の大学なんて受かるわけないやろ。」すると別の友達が「そりゃええかもしれん。俺ら受験で東京に行かんかったら、一生東京に行けんかもしれん。せやし東京に行ったらベストテン見れるぞ!」。この「ベストテン」が殺し文句となり、二月に僕たち三人はとうとう東京にやってきた。受験した大学は三人バラバラだったけれど、しっかりザ・ベストテンの放送のある夜に泊まれるような日程を選んだ。その日の第一位は松田聖子さんの「赤いスイートピー」。もちろん予想通り三人とも見事に試験は不合格。これが僕の初めての東京だった。今でも赤いスイートピーを聴くたびに、呆れるほどにアホだったあの頃の自分を思い出してしまう。
重松清さんの「あの歌がきこえる」は、瀬戸内の町に生まれ育ったシュウとコウジとヤスオの三人の中学生が高校を卒業するまでの生活の中の出来事を、その時の歌と重ねながら綴った、鼻の奥がむずがゆくなってしまうお話し。僕にとっての赤いスイートピーみたいなお話がたくさん詰まった一冊だ。
本: 「あの歌がきこえる」 重松 清
ブックカバー: 45R
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