杉田 昌隆

16/18ページ

とんび 重松清

  • 2019.09.09

父であるヤスさんと息子のアキラの物語。瀬戸内の町に暮らすヤスさんに待望の長男が生まれるところから物語が始まる。アキラはヤスさんに育てられ、ヤスさんもアキラに育てられる。アキラを育てるのはヤスさんだけではない、町のみんなもヤスさんを助けてアキラを育てる。そしてアキラは大きくなって東京に出て行く。このお話には何度も泣かされた。何度も読んで次の展開がわかっているのに、また同じ場面で泣いてしまう。そんな場 […]

サクリファイス 近藤史恵

  • 2019.08.25

自転車ロードレースで闘う男たちの葛藤や苦悩を描いた近藤史恵さんによるシリーズ連作。常に速くなることを求められ、常にタイムと闘っている男たち。自転車ロードレースは個人競技でありながら、チームで勝つ団体競技でもある。速さに加えて駆け引きや作戦も結果に大きく影響してくる。更に、落車、メカトラブル、ドーピング、など次々にトラブルが降りかかってくる。四六時中数字を追いかける男たちの熱くて怖い物語。 本: 「 […]

海の仙人 絲山秋子

  • 2019.08.24

福井県の敦賀から三国にかけて海岸線に沿って漁火街道という道路が通っている。荒々しい岩場とベージュの砂浜が交互に現れる非常に美しい海岸線で、こんなにも美しい海が日本にもあるのかと驚く。しかし、何せ福井県なものだから観光客が来ることもなく道はガラガラ、夏でも海水浴場は地元の子供たちのもの。テレビのニュースで観光客や海水浴客でごった返す海を見るたびに福井県というところは本当に贅沢な地域だとつくづく思う。 […]

水曜の朝、午前三時 蓮見圭一

  • 2019.08.20

大阪万博を機に知り合った人達の人間関係を、義理の息子の視線で描いた小説。僕にはこれが架空の話とは思えない。大阪万博に日本中が興奮した時のことを覚えているということもあると思う。また、1970年というのは戦後たかだか25年の時代であり、国籍や男女の差別そして貧困というものが日常的に存在し、それらが万博の華やかさの中で見え隠れしていたことも思い出したからかもしれない。そして、あの時もしもこういう選択を […]

夏美のホタル 森沢明夫

  • 2019.08.08

森沢明夫さんの「夏美のホタル」は、房総半島で若い男女が一夏にめぐり逢った不思議な体験を綴った小説。同じタイトルの映画「夏美のホタル」もその不思議な体験が美しく描かれていました。そして映画のエンディングに流れてきた美しい曲に自然と涙があふれてきました。歌っていたUruさんの澄んだ声に、この不思議な物語が重なってしまったのです。 その数年後、不思議な体験が私にもやってきたのです。自転車で鎌倉に出掛けた […]

いなかのせんきょ 藤谷治

  • 2019.07.31

北国の山間の村。メルヘン調の新しい駅舎があって駅前は何も無い。村には会議室などを完備した立派な記念館があるけど誰も来ない。道だけは広く整備されているけど車も走っていない。田んぼの中にも広い道路があってそこだけはトラックが猛スピードで村を通過してゆく。平成の市町村合併の策略に失敗した村長が辞任し村に選挙が始まる。果たしてこの村は外から資本を入れて発展してゆくのか、それともこの村らしさを発見して身の丈 […]

土を喰う日々 水上勉

  • 2019.07.26

家の裏庭に一年を通じて野菜を作っておき、春になれば近くの山に入って山菜を採り、秋はまた近くの山に入って木の実や茸を採り、収穫に少し余裕があれば少し手を加えて保存できるようにしておく。急な客人が来たら、畑を覗いてみて工夫してもてなす。近くには豆腐屋と魚屋があれば、それで十分。水上勉さんが十二か月を通じて実践した元来の日本の食卓。コンビニエンスストアが無い時代は、裏庭がその機能を果たしていた。裏庭の畑 […]

ひゃくはち 早見和貴

  • 2019.07.20

中学生の時に凄く仲の良かった友達。部活は野球部。でも野球が下手くそで、ずっと球拾いとグランド整備ばかり。バットを持っている時間よりも、トンボを握っている時間の方が長い。でも、毎日絶対に休まずに練習に行く。ある日「そんな試合にも出られんと球拾いばっかりやらされるんやったら、もう辞めてもええんちゃうん?」と聞いたら「俺、野球無茶苦茶好きやから、球拾いでもええねん。」と言う。三年生になってもずっとグラン […]

笑う食卓 面白南極料理人 西村淳

  • 2019.07.19

大学時代に所属していた山岳部は、本当は「山楽部」と書くのではなかったのかと今にして思う。大抵の場合において大学山岳部の山行というのは、目的のルート達成のために食料の軽量化を計り、綿密な計画と日々のトレーニングによって目標を達成する場であり、従って山は食の楽しみを追求する場所ではない。しかし、僕たち山楽部は食糧計画の中に「軽量化」という概念は全くなく、ひたすら山の食事にクオリティを追求していた。冷凍 […]

クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない 越尾圭

  • 2019.07.18

スポーツ中継をライブで見ることができず、やむを得ず録画して観ようと思い、ビールを買って帰ってテレビの前に座ったところで、誰かにゲームの結果を告げられてしまったとしたら、きっとその結果を告げてしまった人のことを恨んでしまうだろう。苦い珈琲でも淹れて、さあ今から楽しみにしていたミステリー小説を読むぞ!と思ったところに、その小説のあらすじや感想を言われたら、これまたその人のことを恨んでしまうだろう。運の […]

1 16 18